対話

NHK 心の時代 空海『秘蔵宝鑰』

NHK こころの時代~宗教・人生~ シリーズ マンダラと生きる 第5回「むすびつけるということ-両部マンダラの革新-」文字起こし

三界の狂人は狂わせることを知らず
四生の盲者は盲なることを識(さと)らず
生まれ生まれ生まれ生まれて生(しょう)の始めに暗く
死に死に死に死んで死の終わりに冥(くら)し
空海『秘蔵宝鑰』

解釈:正木晃先生


迷いの世界に生きている我々。
我々自身は、狂気に執われていることに気が付かないわけです。
狂気の中にいて、自分が狂っている。ということに。

あるいは、生きとし生けるものは皆、
真実を見極める目を持っていないのに、
持っているような錯覚に執われている。

そのようなこと、いろいろありますね。

人々は、輪廻転生を繰り返したところで、
救いの光は見えませんよ。

といった、絶望的な詩です。
無常観といわれているものがあるんですね。

自分もそうなんだけれども
なんとか、そこから脱却したい。
という思いがありますね。

自分だけではなく、多くの人達とそっちに行きたい
「慈悲」という言葉があります。

「慈悲」とは「抜苦与楽」という意味なんですね。
苦しみを抜いて、喜びを与える。
そういう思いも、一見悲観的にも見える詩に込められているのではないか。
と思うんですね。

生涯に渡って、ずっと抱き続けていて
30歳くらいに唐に渡り、
そのときも、この思いはずっとあった。

その思いを晴らしてくれる最高の存在が恵果阿闍梨だった。

自分の刹那さを救うには、他人の刹那さを救わなければならない。

胎蔵曼荼羅は、慈悲、慈しみ。他者との関わり。
金剛界は、己の悟り。
この、相反するものを両立できるような存在でなければ、恵果阿闍梨から継承できなかった。

この、非常に難しい、異質なものを大きくまとめていく、含んでいく、そういう資質を空海の中に見たのではないか。